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激渋展示は、全部わからなくていい|金沢文庫に行ってきました

  • 2 日前
  • 読了時間: 5分

ゴッホや印象派、北斎のような有名で分かりやすい展覧会なら、「きれい!」「貴重なものが見られた!」で比較的満足できます。


ですが、いわゆる「激渋(げきしぶ)な展示」—あまり知らない歴史資料や、絵画ではない地味な(失礼します)品ばかりの展示—に行くと、どう楽しめばいいのか分からなくなる人も多いのではないでしょうか?



今回は、私なりの「予備知識ゼロ・解説文を読まない派のための激渋展覧会を楽しむフレームワーク」を、先日訪れた金沢文庫の体験をもとにご紹介します。


1.「館の推し」から入る


まず、最初に言っておくと、私は説明書きを読むのがとても苦手です。なので、時代設定とキーパーソンくらいしか事前に調べられません。今回でいえば「鎌倉幕府の重鎮・北条氏に関係しているらしい」という程度です。


知識で埋めようとせず、まずは「館(主催者)の推し」を探すことから始めます。


まずは「館の推し」を見る


知らない分野の展覧会に入ったら、最初に見るのは館の人たちの「推し」です。チラシ。ポスター。チケット。そこにはたいてい、「今回これを見てほしい!」というものが載っています。


そして一番わかりやすい目印が、国宝。


何を見たらいいかわからなければ、とりあえず国宝を探す。ものすごく単純ですが、それくらいでいい。難しく考える必要はありません。


今回気になったのは、チラシに載っていた「銀杏(いちょう)」と「日本地図」でした。





今回の展示のチラシ。渋いです。

他にはこのような昭和時代を象徴するような展示なども



「なんだこれ?」を探す


銀杏?

なんでこんなものが?


展示を見てわかったのですが、鎌倉時代の銀杏の葉がそのまま挟まれていたのだそうです。

しかも植物学的にも貴重。

銀杏には防虫効果もあるらしい。こういうのがひとつ見つかると、急に展示が近くなります。


もうひとつ気になったのが、日本地図。


今の日本地図の感覚で見ると、南が上になっていて形もどこかいびつ。


「昔の人は地図に何を求めていたんだろう?」と思いました。

面積を正確に知りたかったのか。街道を示したかったのか。土地の名前がわかればよかったのか。

地図だって用途によって必要な正確さが違います。

そして、そもそも私が

「この地図、変だな」

と思えるのは、現在の日本地図を知っているからです。


専門的な知識がなくても、「自分が知っている現代の感覚(日本地図など)」と照らし合わせることで、「なんか変だな?」「面白いな」という感性のフックが引っかかるわけです。



今回のお宝『新猿学記』=平安のポケモンカード


今回の最大の収穫は、国宝の『新猿学記』という書物の写しでした。名前だけ聞くと退屈そうですが、中身を知ると一気に化けます。これがとても面白かった。




平安時代中期、作者の藤原明衡がある晩、京の猿楽を見物し、名人たちの批評をするところから始まります。


ここまでは普通ですが、面白いのは、「見物に来ていた下級貴族・右衛門尉(うえもんのじょう)一家」の描写です。


なんと彼、妻3人、16人の娘とその夫13人、息子9人、総勢約40名の超大所帯。つまり「見物客を見物する」というメタ視点の構造になっているのです。


さらに驚くのが、彼らの職業のバラエティ。 武士や大工だけでなく、「博徒」「未亡人」「山伏」「遊女」まで並んでいます。


「博徒って職業なの?」「貴族なのに農業するの?」

現代の感覚からすると、いちいち引っかかって突っ込むのも面白い。


さらに、それぞれのキャラクターの得意技や使う道具、作った物などが設定されていて、「これ、平安時代のポケモンカードみたいだな」と思いました。1枚引くとスペックが一覧できるような楽しさがあります。



源氏物語が上流貴族の優雅な世界を描いたものだとしたら、『新猿学記』は日々働き、インフラを整え、愚痴を言いながらたくましく生きる当時の人々の「リアルな職業図鑑」なのです。平安時代が急に、生々しい人間の世界になりました。


今回の展覧会で私が持ち帰ったお宝は、これでした。


現地体験と「お持ち帰り」のルール


金沢文庫を出ると、隣にはお寺があります。

池があり、太鼓橋を渡って本堂へ向かう。


その配置そのものが極楽浄土を表しているのだそうです。

歩いているうちに、少しずつ別の世界へ連れていかれるような景色。


枯山水や、今よく見る日本庭園ともまた違う。

「ああ、当時の人はこういう空間に浄土を感じたのかもしれない」と思いました。


これは本を読むだけでは、なかなかわからない。現地へ行ったから感じられたことでした。



そして最後に重要なのが、「気になったものを持ち帰って調べる」ことです。

ただし、欲張って全部調べようとすると疲れてしまいます。私のルールは「1回の展示で持ち帰るテーマは2つまで」。今回は『新猿学記』だけを持ち帰って深掘りしました。



全部わからなくていい:地味展示を楽しむ3つのステップ


ということで、私の激渋展示の見方は、


  1. 館の推しを見る

  2. 「なんだこれ?」を探す

  3. 気になったものを1、2個持ち帰る


解説文を全部読まなくてもいいし、展示品を全部理解しなくてもいい。


むしろ一回の展覧会でひとつ、

「銀杏、なんで挟まってるんだろう」「この地図、なんか変」「平安時代に博徒っていたの?」

みたいなものが残れば、それで十分なのではと思っています。「今回はよく分からなかったな」という体験も、頭の片隅に残っていれば、将来別の知識と突然つながることがあります。


ひとつだけ「なんだこれ?」を拾って帰る。それだけでも、激渋な展覧会は一気に知的なエンターテインメントに変わります。




帰宅後、この展示がきっかけで読み始めた『新猿楽記』(東洋文庫・平凡社)と『下級貴族たちの王朝時代『新猿楽記』 に見るさまざまな生き方繁田 信一 (著)。 こうした新たな出会いも楽しみの一つ。

© TEA HOUSE SETAGAYA茶道

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