top of page

千利休の美の変換がすごい

  • 執筆者の写真: TEA HOUSE SETAGAYA 茶道教室
    TEA HOUSE SETAGAYA 茶道教室
  • 2019年9月5日
  • 読了時間: 4分

更新日:2019年9月9日


ree

先日行った”「はじめての茶道」ワークショップ” で茶の湯の歴史をまとめた資料を作ったのですが、とにかく利休さんのアーティストっぷりがすごくて自分で資料を説明していても面白かったので簡単にご紹介。


鎌倉時代に、僧侶の栄西(1141〜1215)が中国より薬としてもたらしてきたお茶が禅僧を中心に普及し始めるのですが、そもそも茶の役割が薬だった事に驚きと、参加者の方もおっしゃっていましたが私も同じです。修行中に襲う睡魔払い、精神集中できる!と僧侶の間でも好評だったとか。受験対策として抹茶を飲むといいかもしれません。


その後、南北朝時代に能阿弥(のうあみ)が書院造で開くお茶会の様式を打ち立てるのですが、貴族の間で楽しむ娯楽でした。各地の茶の産地を飲み当てる「闘茶」が行われたのもこの頃です。薬から遊びの要素が高まった時代です。薬から遊びへ。字面だけ見るとなんだか危ない、、


能阿弥の弟子であった禅僧・村田珠光(1422〜1502)がそこに「禅」の精神を加味して精神的・芸術的な性質を持つ茶道を作り上げていきました。さすが禅僧です。それだけでなく、庶民に伝わっていた「簡素」なお茶を取り入れ「侘び茶」のベースとなるスタイルを築きます。ここからなんとなく私たちが「日本ぽい」と思っている要素が感じられるのではないでしょうか。


その後弟子の武野紹鴎(1502〜1555)が師匠の「侘び茶」をベースにしてそこにこころから誠意をもってお客様をもてなすという「心のありよう」を追加しました。これまでは侘びどちらかというと道具が対象でしたが、そのベクトルが心に向かっていったようです。このあたりからですね、おもてなし要素が感じられます。


茶の流れ: 薬 → 娯楽 → +禅・精神 → 簡素化 → こころ


とっても簡単にしすぎて怒られそうですが、流れを復習するとこのような感じでしょうか。そしていよいよ茶聖とも呼ばれるかの有名な千利休(1522〜1591)が登場します。もうこれで十分じゃないの?何をどう変えるの?なんて私だったら思ってしまいます。茶道界のチェ・ゲバラとも言われる大革命者は何をしたのでしょうか。


簡単にお伝えすると「わびさび」の精神を大成させたのが千利休です。それって、、、それってよく分かりません。言葉だけを説明すると「わび=ものが乏しいこと」「さび=古びて劣化している」なのですが、それじゃあただのガラクタでもいいんじゃないかと言いたくなる気持ちをぐっと抑えて理解を深めていこうと思います。


「わび」の説明でこれまで聞いた中で一番しっくりきた言葉は、単なる乏しいことではなくて、不足しているものや簡素なものも受け入れてそれをよしとする心。「さび」は劣化と捉えられるような経年変化や味を美として捉える美意識。


何でもある現代においては言われてみればなるほどとすぐに納得してしまいがちですが、美の概念が変わるわけです。「はい、そうですか」なんてすぐに理解できないと思います。ヴェルサイユ宮殿の鏡の間を、キラキラやピカピカを全部こそいだような地肌の石や木目だけにしたような部屋にしますよ美しいから、と言われてもそれを美しいとにわかに思えるでしょうか。私は無理です。当時はそれくらいインパクトがあったのではないかという推測ですが、飽くまでも。


見た目に華やかな、薄くて軽くてピカピカの曜変天目のような豪華な茶碗の代わりに、ごつごつとした土っぽい黒い重たい茶碗を出されてそれを美しいと理解できるでしょうか。自信がありません。秀吉もそりゃプンプンしちゃうよね、と共感です。


ree
稲葉天目

ree
初代 長次郎 黒樂茶碗 銘 大黒 出典 www.fashion-press.net

でもそれを「美」として作り上げたのです。今の日本人には素材感や職人さんの手技を見る目などが長い歴史の中で作り上げられてきたので、理解の素地があるのだと思いますが、当時はどのようにその美を変換していったのか。


利休は道具だけではなく、茶室の構造やお点前の作法などにもその美をあてはめていき、茶道全体の様式にまで確立しました。形のないこころや精神である「わびさび」を掛け軸で現すとしたら、広さで現すとしたら、挨拶の仕方で現すとしたら、時間の流れ方で現すとしたら、、、それを全て形にしたという事になるのだと思います。天才。アーティスト。


これ以上何も削れないというところまでつきつめる作業だったのだと想像します。真芯を捉えていたからみんなが理解できたのだと思います。では現代、すでに表現されたものを観察して、どんな方法で「わびさび」が表現されているのかを逆解読するのが茶道のおもしろさの一つでもあると思います。


利休後も茶の湯の歴史は続き、スーパースターが出てきます。これだけの才能が450年以上かけて作り上げてきた美意識や哲学や知恵や技を、教えてもらえる今のなんてありがたい事!






© TEA HOUSE SETAGAYA茶道

bottom of page